橘玲

左脳の役割は、自分に都合のいいウソをでっちあげることだ。無意識が捏造した気分のいいウソは、「意識」というスクリーンに映し出される。――意識は無意識が生み出す幻想なのだ。 もっとも効果的に相手をダマす方法は、自分もそのウソを信じることだ。カルト宗教の教祖が信者を惹きつけるのは、自らが真っ先に「洗脳」されているからだ。社会的な動物であるヒトは上手にウソをつくために知性を極端に発達させ、ついには高度な自己欺瞞の能力を身につけた。 もしこの説明が正しいとしたら、暴力や戦争をなくすために理性や啓蒙に頼ったところでなんの意味もない。自己欺瞞は無意識のはたらきだから意識によって矯正することはできず、他人が欺瞞を指摘すればするほどかたくなになっていく。教育はテロリストを更生できない。 自己欺瞞がやっかいなのは、知性の高いひとほどこの罠から逃れられなくなることだ。なぜなら、その恵まれた能力を駆使して、現実を否定し自分をダマすより巧妙なウソを(無意識のうちに)つくりあげるから。現代史にとてつもない災厄をもらたしたのはみなきわめて「賢い」ひとたちだった。